About
映画『千と千尋の神隠し』から直接モチーフを借りるのではなく、「名前が薄れていく感覚」や「ここにいるのに、自分だと言い切れない夜」の手触りだけをすくい取った曲です。誰かを責めたり世界を呪ったりする代わりに、だれのせいでもない痛みと一緒に、ただ静かに立ち尽くしている心の状態を、そのまま低い声と最小限の伴奏に落とし込みました。タイトルの「かたちのない夜」は、真っ暗な絶望ではなく、意味も名前も与えられていない感情が、かろうじて熱だけを残して続いている時間のことです。無理に前向きになろうとするでもなく、「それでもまだここにいる」という事実だけをそっと肯定したくて書いた一曲です。説明できないしんどさを抱えたまま、それでも今日をやり過ごそうとしている誰かの、小さな居場所になれたらうれしいです。
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かたちのない夜
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Lyrics
呼ばれた名は 水面(みなも)に落ちた月のように ひとしずくずつ 輪郭を失っていく 掌に残るものは少なく それでも ぬくもりだけが 朝を拒むように残っている 戻れない、と知った夜から 歩くことだけが まだ名のない祈りになった かたちのない夜に わたしは立っている だれのせいでもない痛みが 静かに脈を打つ 救いの声は遠く それでも消えないものがある ほどけた心のまま まだ、ここにいる 正しさはときに 薄い紙のように破れ 沈黙の底で 今日が静かにほどける 失ったものの数だけ 身軽になるはずなのに 空いた場所ばかりが かえって重さを持つ 名づけられぬ揺れを 胸の奥に飼いながら わたしは わたしへ戻る道を探す かたちのない夜に わたしは立っている だれのせいでもない痛みが 静かに脈を打つ 答えはなくても 終わりにはしない ほどけた心のまま 朝を待っている 責める言葉を持たぬまま 崩れていく夜がある 崩れながらなお ひとはひとで在る かたちのない夜に 名だけが浮かんでいる 答えのない空白に 消えない熱がある 救いにならなくてもいい 灯りと呼べぬ灯りでもいい ほどけた心のまま もう少しだけ、進む